案内された部屋というべきか、入り口からは想像できないほど広く、格納庫といった広さの研究室内には20名ほどの研究員が思い思いの場所で作業をしており、全体としては人がまばらな状態だ。ただその研究員達の半分はローブを着た姿をしている
部屋の各所に紋章と思しき模様が描かれている
その中を二人は歩いていく
「ここが魔結晶の研究室です。ここにいる研究員は少なからず魔導にゆかりのある者で構成されております。」
「なるほど、ここで魔力変換の式を研究しているわけか・・。それで、早速ですが依頼のものはどうしたらいいんですか?」
それに答えるようにカドロフは四角い台座のついた物々しい機械を前にし、それを手で指し
「はい、こちらの機械のほうにはめ込んでいただき、本物かを確認してからお金を支払わせてもらいます」
「そうですか、では・・・ッツ!?」
<バッシュッッッッツツツツツ・・・・!!!>
渚海が胸元から魔結晶を出そうとしたその刹那、廊下の方から爆音が響き、空間が大きく揺れる。
視界は大きくブレ、大きな地震にでもあったかのようだ
音と振動の様子から推測するに、おそらく始めにこの異空間に入ってきたときのロビーの方だろう
(空間が震えている・・・。まさかこの仮想空間そのものを攻撃されたのか?)
「キャー!!!!」「「逃げろーーーーっ!!」」
渚海が思考を巡らせる最中、原因のわからぬ振動で理性を失った一部の研究員達は叫び声をあげながら、振動の原因を突き止めようと部屋の入り口へと殺到する
騒音にひかれ、渚海も研究室の奥へと向いていた体を入り口へと向けた
「......ッッッッツツ、下がれッ!!」
叫び声の方が早いか否か、入り口の扉を打ち破り何かが部屋の中に入ってきた
…もちろん入り口付近の人間を巻き込んで。
「ヒッ・・・!?」
ギリギリのところで難を逃れた女性研究員の1人が声にならない悲鳴を上げ、その入り口周囲は破砕による粉塵と血飛沫が乱舞する。入り口付近からは研究員だった物体が部屋の中ごろまで飛び込んでくる
あまりにも非日常すぎる光景を目の当たりにした研究員達のほとんどは失神や失禁を起こし、動くことのできない精神状態に陥った
数名の研究員はこういった荒事に慣れているのか、冷静とはいえないものの落ち着いている
“ペチ・・・ペチ・・・・ペチ”
未だに晴れきっていない粉塵の向かうから、裸足でタイルを歩くような奇妙な音が響いてきた
粉塵はゆっくりと晴れてゆき、初めに見えたのは直径4メーテルの鉄球。
この鉄球が扉を破壊したものの正体だろう
鉄球の表面にはまさしく生きた蛇が張り付いたような生々しいのレリーフが全体に掘り込まれており、潰された研究員達の返り血を浴び所々が赤く染まっていた
その姿はまるでレリーフの蛇が血を啜っているようで気味が悪い
「魔結晶はどこ?」
粉塵の先から見えるさっきの音の発生者と考えられる人影はそう言った
見えるシルエットから長い髪の身長145cmの人物であることがわかる
渚海は腕時計を口元に寄せて小声で何やら呟き、影に問う
「お前は・・誰だ?」
“ペチ・・・ペチ・・・・ペチ”
粉塵の先から裸足で鎖にその身を覆われた長い金髪の少女が現れた
少女の腕からは鎖がさらに伸び、その先は鉄球に結びついていた
「お前こそ誰?・・・あぁ、運び屋ってのはお前か。」
「俺のことを知ってるのか?」
「ああ、お前が運んできた魔結晶を探しにきたんだ。寄越しな。」
「生憎まだ依頼を完了してないもんでね、そういうわけにはいかないな。」
「・・・・・フッ!!だろうねっ!!」
声と同時に鉄球は紫に光り、少女の腕の鎖が急速に主の元へと引き戻された