<回廊>に入った立花は、ただひたすら真っ直ぐに走っていく。

走り行く先に在るのは直線でのみ構成された道。

 

<回廊>は、いくつかの空間同士を二次元で繋ぎ合わすことで実際の移動距離の数倍の距離を短時間に移動するができる。

通常、三次元で構成される空間を二次元に擬似圧縮するがゆえに、<回廊>の中の道が点と線でしか表すことができない。

加えて、<回廊>を設置する人間の技量によって一定時間での移動可能距離が変化する。

しかし、これだけの技術を使うにはリスクを伴っている。

そのリスクとは、「空間断絶」である。

 

空間断絶とは、その名の通り空間の切れ目のことであり、空間断絶に触れればあらゆる物質がこの世から消失する。

この切れ目は<回廊>の距離が長くなれば長くなるほど、つまり空間の圧縮率が高ければ高いほど、その発生率は高くなる。

ゆえに<回廊>を使用する者は空間断絶の制御できる範囲でしか使用しない。

設備もたいへん高度な技術を用いており、個人で<回廊>を使っている者は稀で、一般の民衆は公営のものに頼っている。

現在、立花がいる<回廊>を作った主―レイン・ドルズ・アルマーダ−は個人で<回廊>を作成・制御する装置を作った。

このこと自体がかなり特殊であるが、<回廊>作成術自体のレベルが高く、「用意さえあればこの世界を半周できる距離を移動することのできる<回廊>を作れる」とは彼の弁である。

 

話は戻るが、時間にして約3分ほどで、立花の視界の先に<回廊>の終わりを捉えた。

「相変わらず、この技量には感心してしまうな」

その言葉とともに立花は<回廊>の終わり、光の集合点へと消えていった。

<回廊>を抜けると、目的地であるケインズ・フェード社から少し離れた場所に位置するケインレス商業のビルの裏に出た。時間は予定時刻よりも少し早い

「よし、間に合うな」

渚海は安堵と取れる表情を浮かべると、グレイブを目的地へと向けた

 

ケインズ・フェード社――――

家庭の電化製品から工業用機械、果ては軍事兵器まで手がけているのではないか、との噂が立つほど多面的に力と実績を兼ね備えた企業である。

W.C.Fを家電製品、いや家導製品というべきか。

ケインズ・フェード社が研究・改良を進め、家庭で使用できる小規模魔導機関を作ったことは世界に大きな波を起こし、その実績は世界を駆け巡った。

今日のW.C.Fの成長はケインズ・フェード社が一端を担っているのは周知の事実とも言える

渚海はその大企業から何度も依頼を受けている仲であり、今回のような大きな仕事も依頼されるようになった。―――――

 

渚海はあれから程なくして会社の前に着き、グレイブを警備員に預けると会社のフロントを目指して歩いていく。

何度となく依頼をこなしていることもあり、すっかり顔見知りとなった受付嬢のセレナに話しかけた

「おはよう、セレナさん」

「どうも立花さん」

「今日も依頼で来たんだけど、珪鵬さんに直に依頼の物を渡したいんだ。どこに行けばいいか聞いてくれないか?」

「社長からは話を伺っております。研究所へ運ぶようにとの言付けを頂いております。案内の者が来ますので少々お待ちくださいませ。」

セレナは電話を持ち、どこかに連絡をする。

すると、それから10分にも満たない間に案内役とおぼしき40代半ばの男が現れた。

「お待たせしました、立花様。私はカドロフ・ポーツと申します。さっそく参りましょうか」

紹介もそこそこにカドロフと名乗る男に、社員がいつも使っているであろうエレベーターへと案内される

「このエレベーターで最上階にでも行くんですか?」

「いいえ、乗ればわかりますよ」

人当たりの良さそうな笑みとともにカドロフはエレベーターへと乗り込む

渚海が乗り込んだのを確認し、カドロフはエレベーターの扉を閉じ、一呼吸してから、社員証明のカードらしきものをエレベーターの操作盤の余白部分へと押し当てた

すると、エレベーター内の壁中に文字が浮かび上がり、一瞬の間に視界がぼやけたかと思うと視界には円形の部屋が映っていた。

「魔法・・ですね?」

「ええ、一部の者の認証カードに籠められた魔力に反応して魔法が発動するようになっています。

不用意に研究所への侵入を許さぬようにこのような方法がとられているわけです。維持にはかなりの魔力と電力を必要としますが外部からの侵入を許す余地はほぼゼロと等しい。」

「なるほど・・。これならば、もし仮に魔力の暴走が起こったとして、被害範囲はこの空間の消滅程度で収まるわけですか」

「!?・・ええ、そうですが・・。魔法について詳しいのですか?」

「ええ、まぁ多少は」

「そうですか。この場所は仰るとおり、被害の意味もあって隔離されているわけです。では、早速入りましょう」

「・・・・・・ん?」

カドロフが研究所の扉を開けんとするときに渚海は奇妙な感覚に襲われた

「どうかなさいましたか?」

「いや、何やら変な違和感を感じたもので。一応、慎重に開けてもらえますか?」

「えぇ・・では・・入りましょう・・か?」

訝しげな表情をしながら、カドロフは研究所の扉を普段よりも少し慎重に開け放った

そこは深夜の病棟のように閑散とした雰囲気を醸し出した大きな幅の廊下が長く続いていた

人気はないが、廊下から見える扉からはほのかに人の気配がしていた

しかし、特に変わった様子はないようだった

「またずいぶんと静かな研究所ですね。いつもこのように?」

「ええ、各部屋が見た目よりも大きな空間を有しておりまして、出社時など人通りの多い時間帯以外はこのように静か過ぎるほどに閑散としております。皆さん、研究員ですから一度仕事を始めるとなかなか外には出てきませんからねぇ」

苦笑いを浮かべながらカドロフはいい

「さぁ、一番奥に見える扉の向こうが目的の研究室です」

と続け、道の先にある大人5人分ほどの横幅の扉を見る。

その言葉と動きに渚海は頷くと、先を行くカドロフについていった

(さっきの違和感はなんだったんだ・・?)

身に感じた違和感を拭い去れぬままに、カドロフに続いて研究室へと入っていった

<・・・ッ・・・・ジッ・・・>

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