俺はただ<愛>を求めていた
俺は生まれたときから<罪>と呼ばれていた
それは俺が母の罪から生まれたかららしい
だが、その母すら俺は知らない
母という名称の女は俺を生まれてすぐ捨てたらしい
そんな俺は孤児院に保護され、育てられた
拾ってくれた孤児院の人間に自我が生まれてからその話を聞いた
13年もの歳月、そこで暮らし13歳でそこを出た
いい加減に<偽善愛>とやらに飽き飽きしたからだ
育ててくれたことには感謝はしている
それは紛れもない俺の本音ってやつだ
でも、俺は世話になった場所から逃げた
自我をもつ年になっても俺は“クスッ”とも笑えなかった
笑おうとしたが、笑えなかった
本能的に<愛>というやつを信じていなかったんだろう
そんな俺を見て孤児院は気持ち悪がっているようだった
そりゃそうだ、そんな可愛げのない餓鬼は異様に見えもするだろう
その視線に気づいた俺は生きていくに困らない知識をつけた
異物たる俺が出て行くのは最早、運命だったのだろう
4年後、俺はそれなりに暮らせるようになっていた
それなり、とは言え今にも崩れそうな貸家に住んではいたが
まぁ、そんな感じで生きてはいけていたわけだ
仕事は・・物書き“兼”賞金稼ぎ・・・“兼”運送業者“兼”殺し屋“兼”“兼”“兼”・・・・。
興味が引かれるものに片っ端から手をつけているから一番やっているものをいうならば「物書き」か・・。
考えようによれば「その日暮らし」というやつだ
世間からすれば浮浪者のようなものなのだろうが俺にとってはどうでもいいことだ
俺にとってこの世は、興味をひかれるか否かでしかないのだから
さらに5年後――
日々、ただ気の向くままに暮らしていた俺は今日起こったちょっとした出来事に動揺した
朝、家を出ようとドアを開けると何故かドアの前の床に女が倒れていたのだ
(行き倒れか?)
家の前で死なれては面倒なので、一応生死を確認してみると、どうやらただ寝ているだけだった
その女は傷だらけの素足で、服は結構値の張りそうなことだけは素人目にわかった・・俺がホントに素人かどうかはこの際おいといて
家出少女なのか、はたまた人身売買にでも遭い、逃げ延びたやつなのか
「・・・ん・・・これはこれで面白いか・・」
俺はこの女がどこの誰だか知らないが、拾うことにした。
それなりに面白ければそれでいい
ただの家出少女だったら適当に家に連行するだけ、行き倒れならそれなりに金を渡してやるか捨てるかしよう
「まずは、傷の治療か。コイツは俺にとって宝なのか、厄介物なのか・・・楽しみだな」
口元を歪めながら俺は女を抱え上げ、先ほど出てきた部屋へと戻っていった
(・・ここはどこだろう?)
私は薄らと意識だけが先におき始めた
(私は確か“あの場所”から逃げ出したはずだけど、どこに逃げてきたんだろ・・)
記憶を手繰り寄せても、今どこにいるのかがわからない
もしかしたら死んでいるのだろうか・・
(ん・・なんだろう・・この甘い匂い・・)
「こんなものか・・。(Pululu・・・)はい、立花ですが・・・あぁ、届け物ですか。またあとで届けます・・え?すぐ来いって?ちょっと手が離せませんのでまた今度ね。(Pi・・)」
目を開けようとすると男の声が聞こえた。
声の様子からして若い人みたいだ
「アンタ。目が覚めてるなら起きてくんないかな?ちょっと呼び出し食らっちまったし」
ちょっと不機嫌な様子の口調でその男は言った
「あ、はい!おはようございます・・?なのでしょうか・・」
「ああ」
「ここは・・どこなんでしょうか・・私は何故ベッドに・・」
「覚えてないのか・・。うちのドアの前で倒れてたからとりあえず運び入れた。ここはシー・クアンという街だ。ところでアンタはどうして倒れてたんだ?」
「・・・それは言えません」
「言えない、か。・・・・それはまた興味深いことを言うな」
「え?」
思わず聞き返してしまうほどその男は変わっていた
おかしなことを唇の端を快に歪めながら言うのだから変わっていないとは誰も言わないだろう
「いや・・なんでもない。家出か、それとも行き倒れか。どちらにせよ、気が向いたときに出てきゃいい。はいよ、目覚めのココア」
そういいながら目の前にココア?が差し出された。
甘い匂いはこれだったのか・・。
「ありがとうございます・・・これはココア・・?ですか」
「ん?ココア嫌いだったのか?」
「いえ・・・これがココアという飲み物なのか、と」
「・・・・なるほどな。じゃあ家の鍵も渡しておこう。服は適当にあれでも着といてくれ」
男が指差した場所には黒のワンピースがあった
「着るものがあればとりあえずは何とかなるだろう。では、呼び出されたから行ってくる。出て行くなら勝手に出て行ってくれ。行くとこがないなら居てもいいぞ、ではな」
言うことだけ言って男は部屋を出ていった
(どうしよう・・・・・)
私は自分の状況にただ困惑していた
物事が一瞬のうちに流れたので、まだ思考力が追いついてきていないようだ
「ん・・・?」
困惑した思考の中、足に違和感を感じた
掛けられていた布団を退け、ボロボロになった服の下にある足を見てみると、自分の足が綺麗に包帯で巻かれているのが見えた
「これはやっぱりさっきの男の人がやってくれたんだよね。で、服がボロボロだったから服まで用意してくれたんだ・・・。いい人・・なのかな。」
何をするにしろこんな身なりでは奇異の目で見られてしまうだろう
「せっかく用意してもらったんだし、とりあえずは着替えようか」
未だに思考はハッキリとはしていないが、まずは行動を起こすことにした
ゴソゴソ・・
さっそく着替え始めた少女の姿は少しばかり珍しかった
少女の髪は光を反射するほどに済んだ白と翠のコントラストからなっており、肌はまさしく箱入り娘といった感じのくすみのない白肌で、今にも壊れそうな儚さのようなものさえ漂うような姿であった
(あの男の人は私とは違う髪の色をしてたなぁ・・・・・あ)
そこで初めて自分を保護してくれた男に対して礼を言えてなかったことを思い出した
「お礼いってないや・・。せめてお礼だけでも言いたいし、このまま留まっていようかな。さすがにそんなに早くに見つからないだろうし・・・」
その言葉を発した頃にはさきほど与えられた黒のワンピースに身を包んでいた
「もう少し眠らせてもらおう。まだ少し足に疲れがたまってるみたいだ」
少女は着替え終えてすぐに再びベッドに戻り、安らかな寝息とともに夢の世界へと旅立った
――――同時刻、立花の部屋の前。
扉を出ると立花はすぐに部屋のほうを振り返り
「盗られて困るものはないはずだが、アイツが襲われても困るな」
そう呟くと、おもむろに胸元に手をいれ、蒼い石を取り出すと何やら小声でささやいてから家の扉の見た
よく見ると扉の中央には小さな窪みがあり、そこに石をはめ込んだ
そこで自分の腕を見、現時刻を確認した
「この時間だと無理しないと間に合わないか。急ぎでコイツが欲しいようだったな・・。仕方ない、あの手でいくか」
立花は小脇に抱えた厳重そうな箱をチラっとだけ見て、貸家の2階にある家から少し離れた位置にある倉庫に向かった
(魔導機関の燃料、か・・。それもこの純度の結晶を使うものとは・・。あらためて何をするのか興味が沸くな・・クク)
今抱えている届け物は近年、私生活などに用いる機械などにも組み込まれるようになった魔力の込められた結晶からエネルギーを引き出して動く機関「魔導機関<witch craft conversion furnace>」(通称:W.C.F)のエネルギー源たる結晶体だ。
ただし、家庭用に使うような魔力の低いものではなく、高い魔力の込められた高純度の結晶体である。
「届ければ何に使うのかも知ることができるかもしれないな」
倉庫の中に入り、そこに保管された一台のバイクにまたがりエンジンをかけた
「グレイブ、頼むぞ」
立花は歴戦の相棒−グレイブ−に一声掛け、走り去っていった。